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4日目 2000年 8月14日(月)

繰上げスタート

共同浴場(dscn0118.jpg)
6時37分 和歌山県本宮町、湯の峰温泉

何気に時計を見ると6時少し前。ゆっくり起き出してちょっと「つぼ湯」まで朝風呂へ....。と思ったが、戻ってきても朝メシがあるわけでもないので、ちょっと早いがそのまま旅立つ事にした。みんなを起こさないよう静かに布団を上げ、荷物を纏めて階段を下りる。

民宿の朝食の準備で慌ただしいPさんに挨拶をして外へ。さすがに山間の朝は涼しいを通り越して肌寒いほど....。いつものようにバイクのロックを解除した後バッグをネットでリアシートにしっかり固定。イグニッションキーを回し、一呼吸おいてからスタータースイッチを軽く押す。キュルキュル…という小さい音の後、ブォ〜ンと小気味良いサウンドと共に相棒が目覚める。今朝もゴキゲン、絶好調である。(^^)

6時過ぎに川湯温泉を後にして、10分ほどで湯の峰温泉に到着。早速「つぼ湯」を覗くが、既に一組のカップルが待っている。ちょっと1時間待つと後がキツイな〜と思いながら、共同浴場の受付けで待ち人数を確認したところ、実は他にも3組の待ちが入っていて待ち時間は2時間以上との事。

というわけで「つぼ湯」は潔く諦めて、共同浴場でさっぱりと目を覚ましたところで出発。

湯の峰温泉共同浴場 和歌山県東牟婁郡本宮町湯峰

\200

TEL:07354-2-0074

鉄馬に跨がり熊野詣

熊野古道(dscn0123.jpg)
7時 5分 和歌山県本宮町、熊野古道

朝の涼しい空気で包まれている林の中を15分程で駆け抜けて、7時ちょうどに熊野信仰の総本山、熊野本宮大社(MAP)に到着。鬱蒼とした木々に見下ろされた参道はまことに幽玄で、畏敬の念を抱かせるに充分。

さぁ〜て、ちっと歩くか!と気合を入れて、神妙な面持ちでキレイに掃き清められた参道の階段を登る。朝の凛とした空気が実に心地良い。途中で熊野古道も顔をのぞかせ、苔むした石畳がなんともいい雰囲気を醸し出している。

こういうところをのんびり歩きながら、古の旅人の苦労を忍ぶ旅もまた良かろう。とも思うが、なかなかそこまで余裕のある旅をする事ができないのもまた事実。いつかは本当に時間に囚われない旅ができるようになりたいものである。

熊野古道を横目に、参道を直進。わずか5分ほどで菊紋の幕がかけられた総門をくぐって、重文に指定されている本殿を目の当たりにすることになった。(ちなみに総門の内側は撮影禁止なので本殿の写真は無し)

観光客もほとんど無く、静かな佇いを見せる古式ゆかしい本殿は重厚で霊験あらたか。ここで例の如く道中の安全と好天を祈った後、総門を後にし静々と参道を戻る。

大斎原(おおゆのはら)に建立された日本一の大鳥居を見に行った後、再スタート。R168を北上して奈良県十津川村に向かう。

熊野川(dscn0126.jpg)
7時28分 和歌山県本宮町、道の駅「奥熊野古道ほんぐう」

が、早々にパン屋を発見。ここで会ったが百年目、とばかりにさっそくパンと紅茶をPETボトルで買い込んで、道の駅「奥熊野古道ほんぐう」(MAP)で朝食休憩。

澄みきった青空の下、緑濃い熊野の山々を眺めながら、まったりとした朝の時間を過ごす。ここ熊野では時が静かに、そして緩やかに流れている。まるでゆったりと大地を潤す熊野川の如く....

お腹も落ち着いたところで、満を持して8時頃スタート。この先の山岳ルートに備えて真っ先に給油(9.5L \109/L)を済ませ、再び十津川沿いにR168を北上する。

山奥として名にし負う奈良県十津川村。深い谷の山肌にへばりつくように走るR168は道幅こそ広いもののなかなかハードなブラインドコーナーが続き、しかも道路が限られているせいか、意外に交通量が多く緊張を強いられるが、所々で流れる滝を口実に小休憩を挿み山岳ワインディングならではの楽しさを満喫する。しかし、山深さでは四国のそれにも匹敵しそうである。

十津川道路建設中(dscn0128.jpg)
8時12分 奈良県十津川村七色

山深さ故かどうかは定かではないが、こんな山奥にも自動車専用高規格道路「十津川道路」の建設が進んでいる。ホントに地元の方々が待ち望んでいるのならばとやかくいう筋合いではないかも知れないが、コストに見合うだけの利用者がいるのかと考えると、ちょっと驚かざるを得ない。

9時道の駅「十津川郷」(MAP)に到着したところで、決断の時を迎える。何しろまだ宿どころか今夜の目的地すら決めていない。明日の夕方までには泉大津に行けばいいので、これより東にさえ行かなければどこでもいいのだが、北上すると逆に明日時間をもてあますことにもなる。明日の午後に高野龍神スカイラインに入ろうとするなら、逆に十津川村でに泊るのも悪くない。というわけで、道の駅で安く泊れるところを尋ねてみた。

が、いかんせんお盆休みの真っ只中という事もあり観光客も少なくないらしく、温泉地はどこも満室らしい。恐るべし山奥である。しかし、温泉は無いですけど…と申し訳なさそうに1軒だけ空いていた民宿「香」を紹介してくれたので、今宵はそこに御厄介になることにした。

宿を確保したところで、安心して谷瀬の吊り橋に行こうと思っていたら、9時から17時までは一方通行になっていて渡った後はバスで戻ってこなければならないという情報を道の駅の女性から得た。要するにバス代に加えてバスで遠回りする時間がかかると言う。

つまり行くなら9時までと17時からオススメという事なので、取り敢えず今回は見送る事にした。村内とはいえ何しろ日本で最も広い十津川村谷瀬の吊り橋まで道の駅「十津川郷」からまだ1時間くらいかかるので、油断していると時間が足りなくなってしまうのである。

秘湯とはかくあるべし

という具合で、逆に今日は時間の余裕ができた事もあって、なんとなく気になっていた龍神村から本宮町に抜ける龍神本宮林道を走る事にする。取り敢えず龍神村に抜けなければ始まらないので、R168を戻る。そう、戻るのである。いつもならば「同じ道を2度通るなど言語道断」とのたまうところだが、いかんせんここは山奥。迂回路がそうそうあるわけでもないので、安っぽいポリシーには目を瞑って素直に戻る。

上湯温泉と野猿(dscn0132.jpg)
9時50分 奈良県十津川村、上湯温泉

途中、折立蕨尾で温泉にでも入っていこうかと思ったが、なんとなく気が乗らなかったので通過する。まぁ帰りにまた通らざるをえないので、その時にでも入ろう。

蕨尾を過ぎたところで右折。R168に別れを告げてR425へ。十津川村から龍神村に抜ける道はR425県道735号の2本ある。しかし、R425はこの先で崖崩れにより通行止めとなっているようなので、必然的に県道735号へとステアリングを切る。

てな具合で、まるで予定していたかのように上湯温泉(MAP)に行き着いてしまい、本日2度目の温泉休憩。道路沿いの駐車場にバイクを駐めて河原へ下りる。ツーリングマップル記載の「上湯茶屋」の露天風呂は閉鎖されているものの、手作り風のワイルドな公衆温泉があったのでこちらで入浴。ちなみに男女別。お湯は意外に肌ざわりが良く(それもそのはず、十津川村のホームページによると重曹泉らしい)温泉臭もいい感じで○。ちょっと造りは貧乏くさいものがあるが、そこは手作りの素朴さということで、逆に秘湯らしさを醸し出していると言えよう。

上湯温泉 奈良県吉野郡十津川村 \200

10時20分頃上湯温泉をリスタート。再び県道735号をひたすら龍神村へ向かう。

修行の道は険しい

熊野の峰々を見下ろす(dscn0141.jpg)
11時41分 奈良県十津川村(だと思う…)、龍神本宮林道

山深い上湯川に沿って曲がりくねっている県道は林に囲まれているので昼間でも薄暗い。ということで必然的にブラインドコーナーがこれでもかとばかりに続くわけで、なかなかしんどい。道幅も1〜1.5車線と狭く対向車がトラックだとバイクでも離合に難儀する。

当然、コンビニのようなものは無いし、自販機すらなかなかお目にかかれない。しかし、こんな山奥にも関わらず忽然と民家が現れたり、バス停まであったりするのには驚く。そうそう、比較的上湯温泉寄りだったが立派な小学校まであった。分校じゃないんだよ....。それにしてもここから中学校までゆうに10kmはあるが、やはり徒歩か自転車で通うのだろうか?まさか中学生でバイク通学なんてできないよな…。中学で毎日山道を往復20kmも走ってればオリンピックも夢じゃないと思うけど。

なんて事を考えながら、11時過ぎ和歌山県龍神村に入る。さらにしばらく県道735号を走り、上湯温泉から1時間程で加財(MAP)に到着。ここを左折していよいよ龍神本宮林道へと入った頃には、空には雲が広がっていた。

ここまで来たら後は本宮町へ戻るのみ。カッパを着るか着ないかそれだけの事である。しかし、まだ雲は高く明るい。すぐに降り出す気配は無さそうなので、このまま行く事にする。

危機一髪(dscn0142.jpg)
11時45分 奈良県十津川村(だと思う…)、龍神本宮林道

林道とはいえ、道幅こそ狭い(といっても県道と同じ1〜1.5車線)ものの全線舗装済みで状態も県道より良い。が、コーナーをひとつ抜けると大きな落石がゴロンと横たわっていた。

そうだ、これがあるんだ。つい数週間前にR3で小石に乗り上げてリムが曲がるほどのアクシデントを味わった身としては、同じ轍を踏むわけにはいかない。もう出費はゴメン被るし、何より林道はガードレールの無い箇所でのアクシデントは谷底直行を意味する。こんな山奥で遭難したら化石になるまで見つからないかもしれない。

だからといってこんなとこで怯んでもしょうがないのですぐに気持ちを切り替え、全神経を前方に集中して次のコーナーを読みながら走る。最初はおっかなびっくりコーナーに入っていたものの、次第にタイトなコーナー、ルーズなコーナーが読めるようになって、ペースも上がってきた。

暫くして、左コーナーを前にして今までと違ったイヤな感じがしたので、ハードブレーキングで減速したままコーナーを抜けたところ、続く右コーナーに大規模な落石跡を発見。ここまでのペースで走っていたら間違いなく石に乗ってスリップした後、モルタルの山肌に突っ込んでいたのは疑う余地の無いところ。図らずも虫の知らせで難を逃れたと言えよう。

熊野古道(dscn0144.jpg)
12時17分 和歌山県本宮町発心門、熊野古道

その後も、全身全霊を傾けてコーナーに挑み続けた。とはいえ、決して限界のスピードを探ってギリギリまで攻め込む訳ではなく、次のコーナーがどうなっていて、どう走ればいいのか、ブラインドの向こうに何があるかを逐一予測するのである。

そうこうしながらしばらく走っていると、何やらコーナーを一つずつ抜けていく度に感覚が研ぎ澄まされている感じがし始め、いつしか対向車の気配はもとより、路面状況荒れているかどうかもかなり予測できるようになってきた。

そして予測したラインをオンザレールで走れるようになってきたところで、12時15分和歌山県本宮町発心門(MAP)に到着。

間違いなく非常にハードな道ではあったが、とにもかくにも無事に走り終える事ができた。1時間足らずのライディングだが何ともいえない充実感・達成感があり、非常に楽しかった。しかし、何となく修行をしていたような、そんな不思議な気がする龍神本宮林道であった。

バイク乗りにとっての熊野古道と言うと、言い過ぎだろうか....。

笹の滝

豪快な笹の滝(dscn0154.jpg)
14時24分 奈良県十津川村、笹の滝

道の駅「奥熊野古道ほんぐう」(MAP)の近くで、R168に合流。またまた北上して奈良県十津川村に向かう。

今朝通ったばかりの道を淡々と北上し、12時49分十津川村平谷に到着。車がたくさん駐まっていたドライブイン長谷川でお昼。自称名物である釜めし定食(\1,000)を食べたが、思いのほかウマかった。これはオススメ。

食後は再びR168を北上。道の駅「十津川郷」のおねえさんオススメの笹の滝(MAP)へ。

日本の滝百選に選定されている落差32mの笹の滝は水量も多く豪快。河原にしゃがんで、まったりとした時の流れに浸る。涼やかな水の音に包まれ、大量のマイナスイオンを全身で浴びる。あぁ〜生き返る…ような気がする。f(^^;;

陽射しがほとんど無くなった事もあり、30分もいると涼しさを通り越して少し肌寒くなった。というわけで温泉が恋しくなってきたので、重くなった腰をようやくあげる。遊歩道の入口まで戻ったところで郵便局の屋台…でなく移動窓口がちょっと気になり足が止まる。

民宿「香」(dscn0157.jpg)
15時24分 奈良県十津川村風屋、民宿

なになに、レターセットが\1,000とな。法外とまでは言わないまでも、e-mailどっぷりな昨今それほど郵便を利用する事はない。まして絵葉書や切手をコレクションするような趣味もない。しかし熊野古道のふるさと切手はなかなかにイイ感じで、日御碕で買っておいた絵葉書に合わせるといいかも…というわけで切手を4枚だけ頂く。セコいようだが、50円で済むところに敢えて80円使うのだ。これでもYANOにしては大盤振る舞いなのである。

取り敢えず風屋(MAP)まで戻り、身軽になるべく民宿「香」にチェックイン。お風呂道具だけウエストバッグに入れて、湯泉地(とうせんじ)温泉へGo!。

が、\400泉湯は満員御礼だったので、しかたなく\500瀧の湯へ。とりあえず内湯で汗を流して「はふ〜(^^)」と一息つく。で、露天風呂に向かおうとしたがそれらしいドアが無い....。

少し離れているようなので一旦着替えて移動。正直めんどくさかったが、露天風呂からは小さいながらも立派な滝が見え、風情のある景色が楽しめて◎である。しっかり洗い場とカランもあったので、最初から露天風呂に向かうべきであった。

湯泉地温泉 瀧の湯 奈良県十津川村大字小原373-1 TEL:07466-2-0400 \500

秋の足音

豪快な笹の滝(dscn0159.jpg)
17時 6分 奈良県十津川村風屋、風屋貯水池

17時前に民宿に戻り、部屋から風屋貯水池を見下ろしボ〜っとする。何をするでもなくただ時の流れに身を委ねる。都会の喧騒や慌ただしく時間に追われる生活を送っていると、こういう贅沢な時間の過ごし方もたまにはいい。

湖面を渡る涼やかな風と共に、一足早い盛夏の終焉を告げるようなヒグラシの鳴き声が晩夏を迎えた吉野の山々に寂しげにこだまする。

もうすぐ秋だねぇ。と誰に語りかけるでもなく、ひとり呟く。ここで陽水の『少年時代』でも流れようものなら、もうメロメロである。

ちょっと詩人モードが入ったところで、絵葉書を書いておく。案の定、字がガクガク。やはり震動による疲労があるのか、指先にかけて微妙に力が入らない....。というわけで、字が乱れている言い訳でした。f(^^;;

夕食は1Fの食堂へ。他に夫婦が3組いたが会話は全く無し。なぜかみんな黙々と食事を摂る。少し緊迫した雰囲気の中、夕食終了。料理は美味しかったし、設備も良かったのだけど、もうひとつ満たされないモノを感じた。

食後に少しお散歩。といっても国道を少し外れると正真正銘の真っ暗闇なので要注意。ならば、さぞかし星がたくさん見えるだろう…と思いきや、空には一面の雲でしこたまガッカリ。かろうじて月が大きな顔を出しているのだが、逆に月の明るさで星が見えづらくまさに踏んだり蹴ったり。あまり変なとこに行って戻れなくなると難儀なので、ほどほどで大人しく帰還する。

結果的には蚊に2ヶ所刺されたくらいで、何だかなぁという感じ。部屋に戻っても特にする事も無い。ひとり旅の宿には旅人同士ならではの会話を期待しているのだが、正直言ってひとりは退屈してきたので早々に布団に潜り込む。

窓の外では月の光が優しく湖面を照らし、静かに十津川村の夜は更けて行った....。名残惜しいが、明日はついに最終日である。

民宿 香 奈良県十津川村風屋 TEL:07466-8-0105 一泊二食\7,500(通常\6,500)

本日の走行距離 210km

明日への扉

撮影:NIKON COOLPIX 800


Copyright (c) 2000 by Yoshihisa Yano