みちのく'96

東北の冬・日本の冬景色を求めて…

思いがけず土曜日が人並みに休みとなった為、通勤用のアタッシュからパソコンを取り出して、代わりに時刻表と洗面用具だけを放り込み柏駅から常磐線上野へ。上野で8時の東北新幹線「やまびこ」に乗り換えると、わずか2時間半で盛岡に到着。

ホームに降りた瞬間ちょっと身構えたが、全く雪も無いし思った程寒くもない。FTABIわんこオフ以来3年ぶりの盛岡だが、少しも変わっていないように思える。そう、あの時は宇都宮から来たんだっけ…随分前のような気がする。と懐かしがっていている余裕もなく、在来線へ改札を抜け「はつかり」が待つ3番線へと急ぐ。

「あちゃ〜、デッキまでいっぱいだよ…」

幸い青森で乗り継ぎに2時間の余裕をみていたので一本見送って1時間後の「はつかり」で、ゆっくり座って青森へ向かう事にする。この隙に今夜の宿を物色し、秋田で格安のビジネスホテルを押さえひと安心する。

そうこうしている間に時間は過ぎ、駅弁を買い込んで「はつかり」に乗車。さすがに一戸二戸を過ぎると沿線に雪がちらほら見えてくるが、太平洋側だけあって東北と言う割りに積雪は少ない。八戸三沢辺りに至っては全く見る影もなかったが、野辺地まで来ると急に一面の銀世界となった。やっぱりこういう風景を目の当りにすると九州人は「遠くへ来たんだ」と実感する。もちろん、言葉の違いも大きい。特に東北弁にはなぜか旅情を誘う魅力がある。

青森からは奥羽本線。慌ただしく「たざわ」に乗り換えて、今度は弘前へ。昨年5月の時とは打って変った雪化粧の装いで、印象が全く違う。残念ながら岩木山は雲に隠れている。車窓から差し込む暖かい陽射しは春を予感させるが、目前に拡がる風景はまだまだ冬であることを強くアピールしているよう。弘前からは本日のメインイベント五能線の旅。

五所川原あたりでは結構な雪が降っていたが、それもまもなく止んだ。鰺ヶ沢あたりから車窓に冬の日本海が拡がる。暑い雲と暗い海はまさにそのイメージぴったりだが、意外なほど波は全くと言っていいほど無く凪いでいる。しかし、穏やかな中にも何かしらのエネルギーを感じさせる。明るく朗らかな犬吠埼の太平洋に対して、対象的な感じもする。

大戸瀬を過ぎた頃、水平線近くの僅かの雲の切れ間から、夕日が真っ赤な顔を覗かせて恥ずかしそうに沈んでいった。ただ眺めているだけで、よかった。カメラを持って来なくて良かった。そう思った。ファインダー越しでは見えない、どんな高度な技術でプリントしても再現できないような、そんな気がする情景だった。

東能代に着いた時には外は真っ暗。食事でもしようかと駅前に出たが、乗換駅とは思えないほど寂しい雰囲気で、結局粉雪の舞う中を周囲を散策するだけで終わる。しかしここも不思議な程積雪は殆ど無い。再び奥羽本線に乗り換えて秋田へ。車内は学校帰りの高校生などでそれなりに賑わっていたが、やっぱりどことなくのんびりした空気に包まれていた。秋田きりたんぽ鍋でも食べられないかな?と思ったが、時間も遅かったので結局コンビニで済ます。

翌朝は7時の男鹿線で出発。穏やかな天気の中ディーゼルカーはことことのんびり走り、1時間で羽立に到着。しかし車窓から見ていても、田んぼ等には雪が残っているものの、道路や街中には全く雪が無い。やはり暖冬の影響なのか、それともこの時期はこんなものか?ちょっと残念。ここから目的地の入道岬までバスでさらに1時間。乗客がたった4人のバスで疑問がふと頭をよぎった。

「灯台の参観って、冬でもやってんのかな…?」

途中でオヤジさんが一人降りて、残るは女性の二人組。この時期にこんなところへ、他人の事は言えないが、なかなか酔狂な女性である。9時半に入道岬へ到着。悪い予感に限って良く当る。灯台の門まで行ってはみるが、どうみても門は堅く閉ざされている。土産物屋の奥さんに聞くと「毎年ゴールデンウィークからだねぇ」という。

「やっぱり灯台は狭き門であった」(;_;)

次のバスまで2時間以上もあるので、のんびり雪景色の岬を散歩。天気は相変わらずの曇天。空模様は冬の日本海らしくていいのだが、波が穏やかでちょっと演歌っぽくなく期待ハズレ。また強くはないものの海を渡ってくる風はかなり冷たい。やっぱりまだ東北は冬なんだと思い知らされる。それでも2・3日前に比べるとかなり暖かくなったらしい。じゃぁ一番寒い時っていったい…

帰りのバスが来る直前雲が少し晴れて春の陽射しが差してきたので、慌てて土産物屋を飛び出した。雪で覆われた岬の芝生も、暗かった海も陽光を受けてキラキラと光輝き、先ほどとは打って変って一足先に春の世界。まだ雪で覆われているここにも、一歩一歩春が近づきつつある事を実感する。

「暖かくなったらまた来いよ!」そう言われているような気にさせるような春の柔かな陽射しだった。

陽光に後ろ髪を引かれつつ、また女性二人組と一緒にバスは入道岬を後に。羽立から男鹿線秋田に戻り山形行きの「こまくさ」へ。ここまで来てやっと車窓は一面の雪景色となった。清く正しい日本の冬景色を堪能する事ができ、やっと今回の旅の目的を達したというところ。

山形では乗り換え時間を利用して、駅前を散策して蕎麦を食べる。やはり山形の蕎麦は絶品であった。

混雑した山形新幹線「つばさ」にどうにか座って、一気に東京へ戻ると、久々の雨に迎えられてちょっと寒かった。

誰に言われたのか忘れたが「やっぱり雪国は雪の季節に行かなくちゃ」という言葉を改めて思い出し、冬の厳しさの中に確実に訪れる春の足音を感じた、そんな「みちのくの2日間」だった。

さて、こんどはどこに行こうか…



1996年2月24〜25日、関東への長期出張中に週末を利用してぶらっと東北を周った時の記録です。
NiftyServe観光フォーラムにアップした文章を再構成しています。


Yoshihisa Yano