2000年11月に「失敗学のすすめ」を書いた工学院大学の畑村洋太郎教授を統括としてデータベース化が進められていた「失敗知識データベース」。2005年3月から一般公開されていた事に今頃気が付いた。
「失敗まんだら」と「シナリオ」という表現方法については良かったのか悪かったのかよくわからないが、失敗知識データベースに1135件の事例を収め、さらにその中から典型的な失敗事例を106件を読みやすく記述した失敗百選は一読の価値がある。
一括りに「失敗」と言っても深海無人探査機「かいこう」行方不明のようなお粗末なものから、結果的には成功と言える有珠山の噴火まで幅広く、タイタニック号沈没事故のような歴史的な事故や、ニューヨーク・ツインタワービルの崩壊のように想像を遥かに越えた悲劇までも含まれている。
また各カテゴリー毎に整理されているのがデータベースの特徴で、例えば「航空・宇宙」と「建物」のカテゴリーで検索すると、1945年のエンパイアステートビルへのB25爆撃機の衝突でも79,80階で火災が発生していたのがわかる。そしてニューヨーク・ツインタワービルの崩壊を読み比べると確かに衝突後1時間以上崩壊しなかった事で55年前の経験は耐衝撃性に活かされていたと言えるのだが、現代の長距離ジェット旅客機が抱える24,000ガロンにも及ぶ燃料にまでは予想が及ばず、そこから最悪のビル崩壊に至った事が類推されるわけだ。今後の高層ビル設計においては防火防炎だけでなく構造物の耐熱対策までもが考慮されるようになると期待したい。
逆に、アポロ13号を読んでからスペースシャトル・チャレンジャー号の爆発、スペースシャトル・コロンビア号の帰還失敗を読むと、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」という言葉の重さをヒシヒシと感じる。
また太平洋戦争中の航空母艦大鳳の魚雷一本の命中による沈没なんて今まで詳しく語られる事は無かったので大変興味深かったが、そこまで振り返るなら太平洋戦争そのものを失敗として分析して欲しかった気がするが、それは科学技術ではなくて政治の出番か。
いずれにせよ、科学技術に限らずこうして失敗を忘れず糧にする機会は必要だと思うし、折角作った「失敗知識データベース」なのでこれからも事例の追加を行って欲しい。去年も今年も不幸にして取上げて欲しい事故は後を絶ってない。
【参照】
●科学技術振興機構(JST) http://www.jst.go.jp/
┣失敗知識データベースの試験公開を開始 2003年3月20日
┗失敗知識データベースの一般公開を開始 2005年3月22日
◆失敗知識データベース http://shippai.jst.go.jp/
┗ランキング - 失敗百選
●INTERNET Watch http://internet.watch.impress.co.jp/
┗JST、失敗から学ぶための“失敗知識データベース”の試験公開を開始 2003年3月24日
●Amazon.co.jp http://www.amazon.co.jp/
┗失敗学のすすめ (講談社文庫) [文庫] 560円